ひとの医療に追い付け追い越せとばかりに、獣医療はめまぐるしい勢いで進歩し、数十年前まででは考えられなかったような獣医療が私たち飼い主にとって身近なものになりました。
眼科、皮膚科、歯科、行動療法などを専門に扱う獣医師や動物病院も増え、CTやMRIを備えた動物病院も各地にでき、ひとの医療と遜色がなくなってきています。
また、街を歩けばそこここに動物病院が立ち並び、どこに行こうか選びたい放題です。
このような獣医療の発展や動物病院の増加に伴い、「選択する」ということがこれまで以上に飼い主に求められるようになっています。
ペットの具合が悪いとなったときには、まずどこの動物病院がいいのかという選択から始まります。
数多あるなかの動物病院から、自分に合った動物病院を選択する必要があるのです。
そして無事に選んだ動物病院を受診した際には、どこまで検査をするか、どの治療を行うかを問われ、飼い主の選択によりペットの今後が決まっていきます。
私たち飼い主に選択権があるというのは、とても素晴らしいことです。
1つの動物病院しかなく、治療法を押し付けられるというのは好ましいことではありませんよね。
しかし、必ずしも選択肢が多いことが幸せにつながらないのだとしたらどうでしょうか。
選択肢が多いのは必ずしもいいことではない?
選択するということは悩むということです。
選択肢が増えれば、そのなかからより良いものを選ぶのに悩む時間が増えるということになります。
また、選んだ後に「この選択は本当によかったのか」と悩み、場合によっては「これを選ぶのではなかった」と後悔の時間も増えることになります。
これは、心理学でいう「選択のパラドックス」という現象で、選択肢が多いことが必ずしも幸福につながらないということが明らかにされています。
有名なのがジャムの法則とよばれる実験です。
スーパーマーケットのなかに試食コーナーを2か所設け、そのうちの1か所には6種類のジャムを置き、もう1か所には24種類のジャムを置き、売り上げを調査しました。
すると、これらの2つの陳列に売り上げに大きな差が出ました。
24種類のジャムを用意したコーナーは、たくさんのお客さんがジャムコーナーに立ち寄りましたが、購入したのは立ち寄ったお客さんの3%ほどでした。
一方の6種類のジャムを用意したコーナーでは、お客さんはそれほど立ち寄りませんでしたが、立ち寄ったお客さんの30%が購入しました。
この実験結果から、選択肢が多いほど選択することが困難になり、購入する確率が下がるということが明らかになっています。
(選択肢が少なければ少ないほどいいというわけではありません)
ドクターショッピングに注意
ここでペットの医療の話に戻りましょう。
ひとの医療現場で使われる言葉に「ドクターショッピング」というものがあります。
より良いお医者さんを求め、病院を次から次へ変えていくことを指しますが、この現象が動物病院でも起こっています。
ペットにより良い医療を受けさせたいとばかりに、あちらの動物病院、こちらの動物病院と渡り歩いてしまうのです。
しかし、これまでみてきたように、ただ治療の選択肢を増やすことは必ずしも幸せにつながりません。
もちろん、治療法に疑問がある、治療していても良くならないという場合にはセカンドオピニオンとしてほかの動物病院に行く必要があります。
そうではなく、単純に選択肢を増やすために動物病院を回るというのはあまりメリットがないということです。
選択肢が多すぎるゆえに、一つを選ぶことに悩み、後悔するリスクも高まります。
安易なドクターショッピングにより選択肢を増やすよりも、信頼できる動物病院でじっくりと治療に取り組んだ方が心理学的にはどうやら幸せになれそうです。
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