やっかいなカビの見方が変わっちゃう?【カビの取扱説明書】

ルーニー
今回は【カビの取扱説明書 】を紹介するよ


ポポ
カビって気がついたら生えてて
わたし、キライだわ

カビ。

気がつけばひっそりと存在している身近な敵。

掃除しても何事もなかったかのように鎮座している憎き敵。

 

そんなカビにいいイメージがあるという方はあまりいないのではないでしょうか。

しかし、カビは私たちの生活とは切っても切れない関係でありながら、いまいちよくわからない存在です。

そんな謎に満ちたカビにまつわる興味深い話を教えてくれるのが、今回ご紹介する【カビの取扱説明書 】です。

こんな方におすすめ
  • そもそもカビとはなんなのかを知りたい
  • ペットとカビの問題について知りたい
  • 微生物研究者の苦労に興味がある

目次

カビの取扱説明書(角川書店)

カビ研究の第一人者

著者は大阪市立環境科学研究所で長年にわたりカビの研究をされていた、カビ研究の第一人者である浜田信夫さん。

テレビや雑誌などのマスメディアにもたびたび登場するカビ研究分野においては有名な先生です。

住環境のカビについて研究を続け、住宅、エアコン、洗濯機などのカビの生態について解明してきました。

現在は、大阪市立自然史博物館外来研究員としてお仕事をされています。

日本人の生活にカビがいるのは当たり前

古い、汚い、湿っぽい、臭い。
このような嫌なイメージはあるものの、細菌やウイルスほど怖いイメージのないカビ。
湿度が高い日本においてはカビがいるのは当たり前の光景であり、ちょっと気になる悪友のような存在だったと浜田先生は語ります。
では、いつからカビは今のように目の敵にされるような存在になってしまったのか。
変わったのはカビではなく、人の感じ方なのだそうです。
カビはそれまでと同じように地味にひっそりと生きてきたのに、人の注目が集まるにつれて、にわかに悪の権化へと仕立てられた残念な存在なのです。
長期にわたる摂取をしなければ、カビの健康被害は細菌に比べて非常に少ないにもかかわらず、テレビで頻繁に取り上げられるのは、カビのテレビ映えするルックスが原因ではないかと推測する浜田先生の持説も妙に納得してしまいます。
メディアにさらされることにより、悪いものというイメージがさらに刷り込まれいくのですね。
その一方で、酵母を使った発酵や人体に無害なカビを繁殖させた食品が美味しい、健康に良いともてはやされ、レストランなどは予約が取りづらいほど盛況しているといいます。
何とも人間は「敵」であっても都合のいいものは利用する、知恵があるというか欲深い生き物だとしみじみ感じさせられる話です。
ヨーロッパのチーズ、ワイン、日本の醤油、味噌、酒、最近でははやりの熟成肉など、枚挙にいとまがないほど食生活においてカビなどの微生物は私たちの生活を支えているのは驚きです。
医療、衛生の分野ではカビをはじめとした微生物は厄介者として扱われることがほとんどですが、このように視野を広げてみるとまた感じ方も変わってきますね。

カビはひっそりと棲んでます

どの黴も忍びの術に長けてゐし   野原春醪

カビの取扱説明書
この句はなんとカビの生態をよく表していることでしょうか。
人が気がつかないような場所で、身を隠しながら、静かに静かにカビは生きています。
そもそもカビは自然界で細々と暮らしていて、その中のほんの一部が人の文明生活と共存するようになりました。
我が家でも悩まされている洗濯機の洗濯槽の裏側をはじめ、冷蔵庫のパッキンはよく知られた所ですが、なんとスマホ、食洗機、吹奏楽器にもカビはお棲まいになるそうです。
なぜそんな場所に棲んでみようしたのか、カビは物好きというか、自分に合った居場所を見つけるの天才ですね。
カビに関心する一方で、そのような場所のカビにも注目して研究されている浜田先生には頭が下がります。
【カビの取扱説明書 】では、浜田先生の体験談が豊富に楽しく書かれていますが、これほどの研究をするのにはどれほどの労力、時間をかけてなされたのかと想像すると、気が遠くなりそうです。
余談ですが、ノーベル賞をとるような研究については日本人は評価しますが、それ以外はあまり注目されません。
しかし、それまでに至らなくとも各分野の研究者が日々励んでくれるからこそ私たちの生活が豊かになっているということに感謝するとともに、目先の利益だけでなく長い目で見て、社会や暮らしに貢献する研究の分野にもお金を投資するような社会であってほしいと思います。

ペットとカビ

ペットにもカビが原因の病気があることはご存じでしょうか。
ペットでよく見られるカビが原因の病気には、白癬(皮膚糸状菌症)、マラセチアなどがありますが、一度かかってしまうと完治するまでにはなかなか大変です。
また、ペットの生活様式が変化し、ペットとヒトの密着度が高まったことによる影響なのか、白癬菌がペットからヒトにうつったというのもよくある話です。
(マラセチアはヒトも含めた動物の常在菌なのでお互いにうつすことはないとされています)
浜田先生はペットとカビの研究にも以前取り組んでおられ、このように書かれています。

室内塵中の一般的カビ数は、ペットを飼育している場合には飼育していない場合と比べ
平均で約2倍だった。

この結果は、ペットが室内塵に持ち込むのは体に付着したカビだけではないことと、
室内のカビ汚染を助長する栄養や水分なども補給していることを示している。

カビの取扱説明書
つまり、ペットと暮らすということは、カビが増えやすい環境にあるということであり、飼育していない人に比べて、よりカビの対策をしなければならないということですね。
特に、湿った環境にあるペットの抜け毛はカビの好物とのこと。
抜け毛があると見た目に悪いというだけではなく、カビ対策という意味でも抜け毛への対応は重要とのことです。
その他のペットとカビの研究も気になるところですが、残念ながらペットに関連するカビの研究は遅れていて、健康影響はわからない部分が多いとのこと。
ぜひ研究者の皆さんには頑張っていただきたいです。

まとめ

「カビを愛しているのではないか」とさえ思ってしまうようなカビへの温かいまなざしとウィットに富んだ浜田先生の語り口は最後まで読んでも飽きさせません。
カビだけではなく、酵母や細菌にも触れられいますが、微生物に詳しくない方でも先生の軽妙な語り口に引き込まれること請け合いです。
学生の頃にこんな本があったら、微生物学の勉強もきっと楽しく取り組めたと思うと、微生物学落ちこぼれの私は悔しくて仕方ありません。

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