動物と暮らしている人ならば、きっと一度はこう思ったことがあるでしょう。
- 動物比較認知学に関心がある
- 猫の心理学の世界を知りたい
- 猫に関する一般的な本は大体読んでしまった
目次
ネコはここまで考えている(慶應義塾大学出版会)
著者は、高木佐保さんです。
世界から注目される日本でも数が少ないネコ心理学者です。
同志社大学心理学部を卒業した後、京都大学大学院文学研究科行動文化学専攻心理学専修博士課程を修了され、麻布大学で特別研究員として活躍されています。
内容構成
【ネコはここまで考えている】は、5章から構成されています。内容は以下の通りです。
第1章 動物はどのように考えるのか
1 考えるのに言葉はいらない
2 動物の思考研究 3つの推論能力
3 多様な種を比較する〝ものさし〟
第2章 ネコはどこまで物理法則を理解しているのか
1 動物はどのように〝物理的に考える〟のか
2 ネコは本当に物理的な推論が苦手なのか
実験1 音からモノの存在を推論できるのか
実験2 動きと一致する音からモノの存在を推論できるのか
実験3 物理的に〝ありえない結果〟にどんな反応をするか
3 〝物理〟から〝社会性〟へ
4 〝誰が〟〝どこに〟いるのかを推論できるか
──ネコは見えないあなたを捉えている
実験4 飼い主の声から位置を推論できるか
実験5 物理的な音を再生するとどうなるか
5 結局、ネコはどこまで推理できるのか
第3章 ネコは〝声〟から‶顔〟を思い浮かべるのか
1 ヒトと動物のクロスモーダルな推論能力
2 ネコは〝声〟からあなたの〝顔〟を思い浮かべるのか
実験1 ネコは飼い主の声から顔を予測するのか
3 ネコは同居ネコの名前を分かっているのか
──ネコの言葉の理解を試す初の研究
実験2 ネコは同居ネコの名前と顔が分かるのか
4 ネコの自由な思考の可能性
第4章 ネコは〝どこに〟‶何が〟を思い出せるのか
1 動物はどのように記憶するのか
2 動物の〝記憶〟を探る方法
3 ネコはたまたま覚えた記憶を思い出せるのか
実験1 エサはどこに行った?
実験2 あのエサはどこに行った?
4 ネコは〝偶発的記憶〟を持っている
終章 ネコの思考能力はどのように進化したのか
1 ネコ研究の最前線
2 ネコの思考能力はなぜ進化したのか
3 これからの動物の思考研究
あとがき
初出一覧
参考文献
注・巻末図版
索引
すごいよポイント① 本格的な学術書
【ネコはここまで考えている】というタイトルからはどのような内容を想像しますか?
ソフトなイメージのタイトルですが、実際は動物比較認知学に関するかなり本格的な学術書です。
「猫の気持ちが知りたい!」と本書を手に取った方だと、想像していた内容とのギャップにやられるかもしれません。
それもそのはず、この【ネコはここまで考えている】は高木さんが大学院生だったときの博士論文をもとに書かれているのです。
一般人向けということで若干平易な表現にはなっているものの、やはり比較認知学の知識が少なく、論文に触れ合う機会がない読者にはかなり難しい内容だと思います。
私もご多分に漏れず、苦労して読み進めた一人です。
比較認知学についてはほんのりかじったことがあるので知っている用語などもあるのですが、それでも読み進めるのには難儀しました。
特に第1章は猫の話は出てこず、一般的な比較認知学についての解説が主なので、短い章ではありますが乗り越えるのが辛かったです。
さほど厚くはない本ではありますが、さらに驚くのは約1/3が参考文献や注釈、巻末図版なのです。
完璧な論文仕様に脱帽であります。
【ネコはここまで考えている】の内容に興味を持たれた方は、これらの参考文献をあたってみると、より知識が深まることでしょう。
といっても、ほとんどが英語の論文ですが…。
すごいよポイント② 世界が注目する研究内容
心理学というと心や精神について探求する哲学的なイメージを持っている方もいるかもしれませんが、現在の心理学はバリバリの科学的学問です。
心理学にも色々な分野があるのですが、ヒトも含めた他の動物の認知機能を調べる学問は比較認知科学と呼ばれています。
動物のなかでは、チンパンジーをはじめとした霊長類やヒトの身近な伴侶動物である犬は比較的研究も進んでいるのですが、それと比べると心理学に関する猫の研究は遅れているのが現状です。
これからの発展が期待される猫の心理学分野ですが、【ネコはここまで考えている】の実験のなかには、世界でも初の試みとなる検証も含まれており、論文は世界的にも関心が集まっています。
この世界的に注目されたということもスゴイのですが、理系の端くれである私としては、数々の実験の労力の大変さに注目せざるを得ません。
実験は基本的に、仮説を立てて、実験・観察を行い、結果を検証するという一連の流れを繰り返すことによって結論を導いていきます。
本の中では、さらっと「○○匹の猫に実験に参加してもらった」などと書かれていますが、実験に協力してくれる猫をこれだけ集め実施するこの労力たるや、想像を超える大変さがあったことと思います。
個人的に興味深かったのは、一般の家庭で飼育されている猫と猫カフェのような場所で集団生活をおくっている猫に違いがあるのかについて比較しているところです。
確かに言われてみれば、飼い主や数少ない同居猫と暮らしている猫と、多数の人間や猫と触れ合っている猫には違いがありそうですが、さすが研究者の方は目のつけどころが違うなと感心してしまいました。
まとめ
【ネコはここまで考えている】は、「この一冊で猫の気持ちがわかる!」というような類の本ではありませんし、正直なところ、面白楽しく読める本でもありません。
しかし、猫の心理学研究の実際と現状を知ることができる貴重で興味深い書物です。
猫に関する一般的な本には飽きてしまったという方は、お手に取ってじっくりと世界的研究の一端に触れてみてはいかがでしょうか?