獣医行動学という分野をご存じでしょうか?
初めて聞いたという方もいらっしゃるかもしれませんね。
獣医行動学は、病気や怪我を治療するだけでなく、動物の精神的な健康も獣医学の観点から診断・治療する学問です。
かみ砕いていうと、動物の生活や行動にまつわるトラブルを解決する学問というとイメージしてもらいやすいでしょうか。
トラブル解決というと簡単そうに聞こえますが、それはとても難しい仕事です。
というのも、動物の歴史的なルーツや行動を学ぶところから始まり、生態学的なこと、病気の治療法などに加え、観察力や分析力なども問われる幅が広い学問だからです。
あまりまだ浸透してない学問分野ですが、近年、動物とひとの暮らし方の変化に伴い、今まででは問題にならなかったようなことで悩みを抱える人も増え、獣医行動学の必要性が高まっています。
今回ご紹介する本、【猫が幸せならばそれでいい】は、そんな獣医行動学の分野で日本のパイオニアともいうべき存在である専門医が書いたものです。
- 猫の行動学に興味がある
- 我が家の猫を幸せにしてあげたい
- 【俺、つしま】の絵のファンである
目次
猫が幸せならばそれでいい(小学館 )
日本の獣医行動学のパイオニア
著者は、さんは獣医師ならば知らいない人はいないであろうというくらい、有名な先生です。
というのも、キャリアがスゴイ!
大学卒業後に都内の動物病院にて勤務し、後にアメリカ留学。
米国パデュー大学で学位取得し、さらにジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了されました。
日本では数少ないアメリカ獣医行動学専門医の資格を有している、日本の獣医行動学においてはパイオニアというべき先生なのです。
現在は、全国の動物病院で問題行動の診察にあたるだけではなく、全国の獣医大学にて非常勤として教鞭をとったり、学会やフォーラムで講師として務められています。
まさに引っ張りという言葉がふさわしい、人気の獣医師です。
そんな
というのも、素晴らしい実力とキャリアを持つスーパーウーマンなのですが、一方でとってもチャーミングな女性なんです!
何度かフォーラムで先生の講義を受けたことがあるのですが、気さくで話がとても面白いんですよね。
質疑応答では、わからないことは「わからない」とハッキリ答えてくれる誠実さもステキ。
それ以来すっかり先生のファンになってしまい、密かにお慕い申し上げている次第です。
どんな内容?
エッセイ的な行動学本
【猫が幸せならばそれでいい】は、webメディアがもとになっています。
オトナ世代向けとしてお馴染みの雑誌、月刊誌『サライ』のweb版である『サライ.jp』に掲載されていました。
『サライ.jp』のなかの『にゃんこサライ』というコーナーに不定期に掲載されていたのですが、人気を受けて、記事に修正・加筆され、改めて本として出版という運びになったようです。
webメディアが由来のせいか、全体的に軽めの内容となっています。
学術的にきっちりと、というよりは、読者に行動学に親しんでもらおうという趣旨が感じられます。
ですので、かっちりとしたいかにもお勉強という本が苦手な方でも、大丈夫!
コラムやエッセイという雰囲気なので、軽い気持ちで読み進めていただけるのではないでしょうか。
途中で挟まれるイラストは、人気漫画『俺、つしま』のおぷぅのきょうだいが担当されています。
このイラストを眺めるだけでも、癒されます。
表紙のイラストも、入交先生によく似てらっしゃいますね!
実用的な視点の行動学トピック50
【猫が幸せならばそれでいい】では、全部で第6章、約50のトピックから構成されています。
目次は、以下のとおりです。
第1章 猫さんの「猫生」でもっとも大切なこと
第2章 きれい好きな猫さんはトイレにこだわります
第3章 猫さんは大好きな飼い主に甘えまくります
第4章 猫だってちゃんと学んでる
第5章 大切な家族だから気を配りたい猫さんのストレス・認知症
第6章 もしものときに猫さんとの暮らしを守るために猫が幸せならばそれでいい
第1章 猫さんの「猫生」でもっとも大切なこと
『第1章 猫さんの「猫生」でもっとも大切なこと』は、よく勘違いされる猫の夜行性説、グルーミング、フードのお話です。
私が興味深かったのは、猫の「おふくろの味」のエピソード。
年をとって病気になったときに病気をコントローするための食事である療法食を食べなければならないことがあるのですが、まぁ、これが嫌いで食べない猫さんは少なくないのです。
これを予防するために、療法食を「おふくろの味」として体に刷り込ませようというアイディアは、行動学を応用した、まさに悪魔のようなテクニック。
なるほど納得、感心しきりです。
一方で、同じ「おふくろの味」でも、何とも切なくなったのが入交先生の愛猫・小太郎くんのエピソード。
闘病中でもファストフードを喜ぶという話に、捨て猫の苦労などがしのばれると同時に、自分を育てた味というものの威力のすごさが勉強になりました。
第2章 きれい好きな猫さんはトイレにこだわります
『第2章 きれい好きな猫さんはトイレにこだわります』は、見てわかるとおり、トイレについての章。
やはりトイレ、粗相については行動学では外せない問題で、トイレ問題のために1章が割かれています。
原因はその家庭、その猫によって違うので、「これをすれば解決します!」というテクニックなどが書いてあるわけではありませんが、基礎的なことが学べるようになっています。
第3章 猫さんは大好きな飼い主に甘えまくります
『第3章 猫さんは大好きな飼い主に甘えまくります』は、猫の社会性がテーマの章です。
猫同士のコミュニケーションや、飼い主に対する行動の裏側にある心理が解説されています。
お恥ずかしいのですが、近所の雌猫同士が協力して子育てをする話は初めて知ったので、勉強になりました。
第4章 猫だってちゃんと学んでる
『第4章 猫だってちゃんと学んでる』は、猫の学習がテーマとなっている章です。
子猫の社会化期、異種動物間のコミュニケーション、トレーニング、しつけなどについて、書かれています。
飼い主がよかれと思った行動がかえって悪いしつけになってしまうという件は、非常に反省しました。
というのも、我が家も猫に対する誤った行動の結果、よくない行動を増やすという残念なことを最近、経験したからです。
まさにP.114の漫画と同じ流れです。
我が家の場合は、『ポポがトイレ便器の奥に隠れるのを強化する』という、大変汚い過ちだったのですが、人間の行動を変えた結果、ようやく解消しつつあります。
人間の行動一つで、猫の行動も変わってしまうことをひしひしと感じました。
第5章 大切な家族だから気を配りたい猫さんのストレス・認知症
『第5章 大切な家族だから気を配りたい猫さんのストレス・認知症』は、第1~4章までの基本的なことに加え、さらに一歩進んで猫に快適に暮らしてもらうためのヒントとなる章です。
猫の過ごす居住空間の環境や、遊び方、ストレスが原因で起こる病気、高齢の猫で気になる認知症などについて解説されています。
病気についての判断は、どうしても難しいところがあります。
そのため、入交先生のお話も最終的には「自己判断せずに、動物病院に診てもらいましょう」という流れになっています。
読む方によっては、やや物足りなく思うかもしれません。
しかし、基本的な知識を得て、適切なタイミングで受診をするというのは飼い主さんにしかできないことなので、ぜひともよく読んでいただきたいところです。
第6章 もしものときに猫さんとの暮らしを守るために
『第6章 もしものときに猫さんとの暮らしを守るために』は、猫のいる家庭の災害対策についての章です。
ほかの章と比べて、圧倒的にボリュームは少ないですが、災害大国の日本では大切なトピックです。
まとめ
【猫が幸せならばそれでいい】は、獣医行動学のパイオニアによる、気軽に学べる猫の行動学の本です。