「飼い主さんと対話する場」をつくりたい話

今回は、私個人のやりたいことについて語っていきたいと思います。

 

開業して以来温めつづけている、やりたいことがあります。

それは、飼い主さんと対話できる場所をつくることです。

 

なぜこのようなことを考えるようになったかというと、話をする、話を聞いてもらうという行為は大きな力を持っていると感じたからです。

 

私は飼い主さんのお宅に伺う往診というスタイルで診療をしており、動物病院内で働く獣医師と比べ、飼い主さんの生活に近い場所で動物と飼い主さんに向き合ってきました。

 

いつもの生活空間のなかで飼い主さんもリラックスしているためか、ペットのことだけではなく、飼い主さんご自身の悩みだったりもお話していただくなんていうこともしばしばです。

 

そして、時間をとってしっかりとお話をされた後に、少なくない飼い主さんがこのようにおっしゃるのです。

 

「話をしたら、スッキリしました」

「話を聞いてもらえて、安心できました」

 

「ようやくわかってもらえた」と涙を流された方もおられました。

 

私は精神医療や心理学の専門家でもないただの獣医師です。

できることは、ほんの少しの動物医療の知識をベースに、飼い主さんと共に悩み、考えることだけです。

問題や悩みの原因を解決できないこともしばしばです。

いや、むしろ解決できないほうが多いくらいかもしれません。

 

それでも、このように話をしたり、聞いたりすることで喜ばれたの経験は数えきれないほどあるのです。

 

「解決策やいいアイディアを提案できなくて申し訳ないな」と反省することもしきりだったのですが、それでも感謝をされるというありがたい経験を重ねるうちに、ある考えが湧いてきたのです。

 

それが、「対話」という行為自体に大きなパワーがあるのではないかというものです。

 

この考えを思いついたときに、ふと自身の思い出が甦ってきました。

それは、私がまだまだ若い学生のころの話です。

 

友達にも話しづらいような悩みがあるとき、原因もはっきりしないけれど何だかモヤモヤするときに、話し相手になってくれる先生のところに休み時間にちょくちょくお邪魔していました。

 

熊のように体格のいいその先生は、私が訪れるといつも決まって、「コーヒーでも飲むかい?」と笑顔で聞いてくれました。

 

香ばしい香りのするコーヒーをいただきながら先生と話す時間はとても穏やかで、コーヒーを飲み終えるころには心が落ち着き、悩みが軽くなったような気がしたものです。

今となっては相談した内容はよく覚えていないのですが、先生と過ごした空気感ははっきりと思い出すことができます。

 

あのときの私は、間違いなく先生との対話によって癒しを感じていました。

 

あのときの感覚を思い出すと、「対話」のパワーとその可能性をますます強く感じるのです。

 

動物医療業界も飼い主さんとのコミュニケーションに力を入れています。

 

ただその内容は接遇と呼ばれるものが中心で、飼い主さんが不快にならないための対応の仕方であったり、いかに上手にスタッフの意向を伝えるかといったような、マナーやスキルのような色合いが強い印象です。

 

確かに、飼い主さんもスタッフもお互いが気持ちよく過ごすにはそのようなスキルは必要です。

 

しかし、より必要なのは、獣医師をはじめとしたスタッフ主導の検査や治療方針決めのような医療的な会話だけではなく、もっと素朴な対話や交流といったコミュニケーションではないかと私は思うのです。

 

長々と語ってきましたが、このような理由から飼い主さんと話をできる場所を作ることを2022年の目標としたいと思います。

 

理想は、私が学生時代に体験したようなふらっと来て、ちょっと話をできるようなスペースです。

 

巷ではコロナを懸念してリモートが推進されていますが、オンラインではなく、リアルな場所づくりを目指していくつもりです。

 

オンラインでも対話はできるかもしれません。

でも、スマホやパソコンの画面からは得られない、実際に人と人が出会うことにより生まれる温かな空気感を何よりも大切していきたいですし、無くしたくはありません。

 

人脈も権力もお金もない一介の獣医師ですので、まずは場所探しからですが、頑張っていきたいと思います!

というわけで、題して、飼い主さんの集いカフェプロジェクト(仮)。

 

これからも、自分の考え方だったり、進捗状況を少しずつ書いていくつもりですので、応援よろしくお願いいたします。

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